【沖島】日本でここだけ、湖上に人が暮らす島

【沖島】日本でここだけ、湖上に人が暮らす島

船で10分、ぶらっと気軽に島観光

biwacommon編集部のひーちゃんです。滋賀で暮らして13年目、先日ようやく念願の沖島へ足を運ぶことができました。諸々時間の関係で駆け足のショートトリップでしたが、思っていた以上に素敵なところだったことよ、伝われ~!という思いで投稿させていただきます。


沖島は滋賀県のびわ湖に浮かぶ一番大きな島。かつては湖上を行き交う船の安全を祈願する神の島として崇拝される無人島でした。現在は日本でただ一つ、そして世界でも珍しい「淡水湖で人が暮らす島」。島へ行くには近江八幡の堀切港(休暇村のすぐ近く)から1日10~12便出ている通船「おきしま」に揺られること10分で、旅情に浸るまもなくあっという間に到着します。アクセスがいいので、県内はもちろん京都や大阪からのぶらっと日帰り観光にもおすすめのスポットです。

島の文化を象徴する大人用三輪自転車

沖島の船着場で下船後、さっそく島内を散策して回りました。まず向かったのが「沖島コミュニティセンター」。ここで島内の案内マップやパンフレットを入手することができます。寺社仏閣などの主要なスポット、お土産もの屋さん、食べ物屋さんの場所をチェックしていざ出発。

そうして歩いているなかで、ふと気づいたこと。自動車を1台も見かけない!! バイクさえも!!! そう、この島で主要な乗り物は、大人用の三輪自転車だけなんだそうで。確かに確かにこの日だけで、今まで生きてきたなかで見たのを全部足した以上の数、たくさんの三輪自転車を見ることとなりました。そして、そのほとんどのサドル部分に、雨よけ・日よけのためにお菓子の缶のようなものが被さっていました。なんとも不思議な光景。ここでしか見られない、島特有の文化に触れた瞬間やな~と、気持ちが高揚しました。

島ではこのお菓子の缶のことを「ガンガン」と呼んでいるそうで、船着場すぐにあるレンタサイクルの店名にもなっています。もちろんここでは、三輪自転車が借りられます。ちょっと珍しい乗り物にまたがって、アトラクション的な楽しさを味わいながら島内めぐりができそうです。

どこを切り取ってもノスタルジーがすぎる

民家の軒が連なる迷路のような細い路地を抜けて歩きます。突然現れた階段を登って「奥津嶋神社」へ。ここでは民家の屋根越しにびわ湖を一望にできる、島ならではの景色を楽しむことができました。島の反対側の岸へ出ると、そこは湖西側に向かってびわ湖が開けた「絶景ポイント」。あいにくの曇り空だったのが残念でした。

途中立ち寄った「沖島郵便局」では、この島にしかないレアなお土産を発見。オリジナルのポストカードと、沖島の景色が描かれた風景印です。もちろん旅の便りとして郵送することもできますが、今回はそのまま持ち帰りました。

どこをどう切り取っても、ジブリ映画に出てきそうなノスタルジックな景色。若いカップルが大きなカメラをぶら下げて散策している姿も見かけました。港町ならではののどかさと、おおらかさと、寂しさと、郷愁と。いろんな気持ちがない交ぜになって、『遠くまで来たなぁ』と錯覚しました。本当は、わりと近いのに。

漁師の島のとっておきの珍味といえば

沖島はびわ湖の漁獲量の半分を占める漁師の島。多くの人が漁業を生業にして暮らしています。漁協組合には漁師の奥さんたちが運営する「湖島婦貴(ことぶき)の会」があり、ご当地ならではの旨い味付けで調理した湖魚の佃煮や、滋賀県の郷土料理として知られる鮒ずしなどが販売されています。

訪れた日はちょうど鮒ずしづくりの真っ最中だったので、「顔はアカンで、手元だけにしてや」を守りつつ、なかなかお目にかかれない貴重な仕込み風景を撮影させてもらいました。鮒ずしは日本古来の“なれずし”の一種で、①塩漬けされたニゴロブナを丁寧に洗って、②たくさん炊いておいたご飯を一つずつに詰め、③樽に重ねて漬け込み自然発酵させる、シンプルな製法の発酵食品。最高級の珍味とも言われ、チーズのような独特の匂いを醸します。

実のところ鮒ずしは発酵臭が強くこれまで苦手な食材だったのですが、丁寧な仕込みを目の当たりにしたので期待が膨らみ、ゴリや小鮎の佃煮とあわせてお土産に持ち帰ってみることにしました。「ワインに合うでぇ」と聞いていたので早速その日の晩酌にいただいてみたところ、想像を超えるような、ある種新しい味との出合いでした。最近は臭い控えめの製法になっているのか、自分の舌が大人になっただけなのか、その両方なのかはわかりませんが、芳醇で奥深くまろやかな発酵食品ならではの旨みに舌鼓を打つ夜になりました。佃煮も絶妙な甘辛で、ご飯とお酒がすすみました。湖魚のお土産は今回購入した湖島婦貴の会のほか、「沖島 港屋」でも購入することができます。

島では自家製鮒ずしをつける家庭も多く、大きな釜でご飯を炊いておられるご夫婦や、鮒を吊って日陰干しにするボックス、仕込み終わってじわじわ発酵中の大きな樽などを、道すがら至るところで目にしました。毎年7月には島外からも参加できる鮒ずし作り体験が行われているそうなので要チェックです。

胃袋に優しく染み渡る島のランチ

島散策の途中でランチタイムを迎えたのでお店を探したのですが、ここで大失態に気づきました。沖島の食事処は要予約のところがほとんどで、急に立ち寄ってもお留守だったり食事の用意がなかったり。カフェなら開いているかな?とシフォンケーキのお店「いっぷくどう」さんを訪ねてみましたが、こちらも閉まっていました。ちょうど中で菓子を焼いておられたのか、お店の周辺には甘~い香りが漂っていました。

次の船が出るまで2時間、お腹はペコペコ。さてどうしたものか。ダメもとで島の野菜や魚を使った軽食を出す喫茶店「さなみ庵」さんに電話してみたところ、『いま買い出しからの帰路で船の中なんです』とのこと!お言葉に甘えて店主の帰宅を待ち構え、そのまま店を開けていただきました。おしゃれな雑貨やランプなど、こだわりのインテリアをぎゅっと詰め込んだ可愛らしい空間にほっこり。この日のお品書きは、島エビをふんだんに使ったチャーハンやペペロンチーノなど。急な訪問に笑顔で対応してくださった店主のもてなしと、じんわり優しい味付けの料理にお腹も心も満たされました。今回はラッキーでしたが、島で食事をとる場合は前日までの予約がおすすめです。

えっ、あの魚って食べてもいいの?

最後に。帰り際に漁協組合の屋台で見つけた「よそものコロッケ」は、旅の思い出に食してみて欲しい一品です。こちらは“よそもの=外来魚”というわけで、びわ湖で釣れたブラックバスが使われています。“びわ湖の生態系を狂わす悪いヤツ”というイメージも相まって「えぇぇぇぇ」と敬遠する方も多いと思いますが、沖島で釣れたものだけをキチンとした工程で、新鮮なうちに丁寧に下処理したものなので、まったく臭みなく淡白なふわふわの白身で美味しかったです。既成概念を取っ払って、ぜひチャレンジしてみてください!


あまり予備知識もなく訪れた沖島でしたが、ぶらぶら散策しているだけで十分楽しむことができました。もちろん、しっかり計画をたてる派であれば、事前予約で地元食材づくしのコース料理を堪能したり、漁師宿で民泊したりと、さらに沖島滞在の楽しみを広げられそうです。

木造校舎が美しい「沖島小学校」や、島民の間で弁天さんと呼ばれている「厳島神社」などへは、今回は時間の都合で行けませんでした。次回、桜のトンネルを抜けてたどり着くユニークな土地形状の「千円畑」などとあわせて、春の気候がいい時期にまた訪れてみたいと思います。