「犬猫のために人生を捧げる」と決めた人。ハグオール梶谷 江世(かじたに きみよ)さん

「犬猫のために人生を捧げる」と決めた人。ハグオール梶谷 江世(かじたに きみよ)さん

2026.7.1湖西

これからの人生をどう過ごしていきたいですか?

biwacommon編集部のモリモトです。
皆さんは「これからの人生をどう過ごしていきたいですか?」と聞かれたら、何と答えますか?

私の場合「仕事しながら~おいしいご飯を食べて~、趣味も嗜みつつ~でもそうなるとやっぱりお金がいるし………とはいえやっぱり体は資本!健康が一番ですよね〜」

この後「ところで、なんて質問でしたっけ?」と聞き返してきそうな、我ながらキレのない答えになりそうです。

私の話はさておき、今回ご紹介する「滋賀のいいひと」は、その問いに対して迷うことなく、一言で答えてくれるような方でした。

「犬猫のために人生を捧げる。」株式会社ハグオール梶谷江世(かじたに きみよ)さん

株式会社ハグオールの梶谷江世(かじたに きみよ)さん。犬猫用フードの開発を手がけ、滋賀県大津市の湖西エリアに工場を構えています。

「犬猫のために人生を捧げています。」と話す梶谷さん。その原点はどこにあるのか話を伺いました。

ーー今日はよろしくお願いします!現在は、ご自宅でワンちゃんを飼われているんですか?

はい!ゴールデンレトリーバー2匹と、猫1匹と暮らしています。

ーー梶谷さんにとって、犬や猫は昔から身近な存在だったんでしょうか

そうですね、最初は父が連れてきたんです。その頃はゴールデンレトリーバーが流行っていて、父もミーハーだったんですよね(笑)母が仕事に出ている間は家で一人で過ごすことが多く、近所にもあまり友達がいませんでした。だから遊び相手といえばいつも愛犬で。家族であり、親友でもある存在でした。

保護活動のボランティアに出会う学生時代

ーー今までたくさんの犬や猫と接してこられたと思うのですが、どれくらいの数になるのでしょうか?

自宅で犬や猫を飼っているのはもちろんですが、学生の頃は、犬猫の保護活動を行うNPO法人でボランティア活動に参加していました。正確に数えたことはありませんが、何千匹もの子たちと出会ってきたと思います。

ーーすごい数ですね……!ボランティア活動に参加し始めたきっかけはあったんですか?

当時、知り合いの家の近くで起きた犬の虐待事件を耳にしたんです。テレビのニュースで見聞きしたことはありましたが、それが身近で起きていることだと知りました。そこから動物のために何かしたいという思いが強くなり、ボランティアとして保護活動を始めました。

保護活動に参加し見えた“理想”と“現実”

ーー学生の頃から、保護活動に参加するってすごく熱心ですよね。

そうでしたね。正直、その頃は自分でも少し過激だったなと思う時期もありました。例えば毛皮を着ている人を見かけると、「どうしてそんな残酷なことができるの?!」と感情的になることもあったり……。でも、自分の中の“正義”と“現実”は、思っていた以上に違うことが多かったんです。ただ、自分の正義を押し付けるだけでは、何も変えられないことに気がつきました。

保護活動に参加する中でも、自分が思い描いていた“理想”と“現実”のギャップを感じるようになりました。寄付によって支えられるNPOの活動はとても大切なものです。しかし、その仕組みだけでは解決できない課題も多く、「もっと別の方法で動物たちを救うことはできないだろうか」と考えるようになりました。

そこで自分は「ビジネスで、犬猫の世界を変えたい」と考えるようになりました。まずはビジネスを学ぶために上京し、一般企業に就職して社会人としての経験を積み始めました。

なぜ今のビジネスに?

ーーそこから、どうして今の事業にたどり着いたのでしょうか?

数年間は社会人として東京で働いていましたが、犬猫への想いがついに抑えられなくなって(笑)。「これからの人生のすべてを犬猫に捧げる!」そう決意し、会社を退職しました。

仕事を辞めたのはいいものの、何を事業にするのかはまったく決めていなくて……(笑)
まずは飼い主さんが集まるコミュニティや、公園で散歩をしている方々に片っ端から声をかけて、「何に困っていますか?」とインタビューして回りました。そこで、飼い主さんの悩みとして最も多かったのが『食事と健康』だと知りました。

その時、自分があるドッグフードと出会った時のことを思い出しました。

生食フードとの出会い

梶谷さんも、それまで飼っていた愛犬たちが病気になったり、アレルギー体質だったという経験から与える食事には人一倍気を遣ってきたそうです。ただ、何匹もの愛犬との別れを経験する中で、「本当にあの子たちにとって良いものを与えられていたのだろうか」そんな思いが心に残っていたそう。

ーーその疑問を抱えていた中で、どのようにして食事と健康を改善していったのでしょうか?

調べて、調べて、たどり着いたのが「生食フード」でした。
※「生食フード」とは、加熱していない生の肉や内臓、骨、野菜、果物などを使用したペットフードのこと。

正直、最初は「生食って大丈夫なん?」とか、「生肉なんて海外の大きな犬が食べるものじゃないの?」と思っていました。でも、愛犬のためになるなら試してみたいという気持ちもあって、当時飼っていた愛犬に生食を与えてみました。

当時は本当に知識もなく、食事を変えたことでお腹の調子を崩してしまうこともありました。それでも様子を見ながら食材や与え方を見直し、その子に合う方法を探し続けました。1ヶ月ほどすると、体力や毛並みの状態が良くなっていく実感があったんです。

ーー事業にするために始めたわけでなく、愛犬への想いから始まったものだったんですね

そうですね!始めた頃は、まさか生食をビジネスにするなんて、まったく考えていませんでした(笑)。そうした経験から、飼い主さんや犬たちにとってプラスになると信じ、今は事業として自社で製造、開発をしています。

ハグオールのブランド「ハグボックス」の素材へのこだわり

ーー商品を作る上でのこだわりをお聞きしたいです。

生食と聞くと、赤身肉!というイメージが強いかもしれませんが、お肉だけではなく、野菜や骨、内臓なども含めてバランス良く配合する必要があります。それが生食の一番手間のかかる部分でもあり、多くの飼い主さんが難しいと感じるポイントだと思うんです。そこで私たちは、素材を単品で販売するのではなく、必要な栄養バランスを考えてブレンドした商品を開発・販売しています。手軽に安心して生食を取り入れられるようにすることも、大切なこだわりの一つです。

ーー商品の材料はどのような基準で選ばれているのでしょうか?

品質はもちろんですが、その動物がどんな環境で育てられたかも大切にしています。命をいただくのであれば、生きている間はできるだけ尊厳を持って過ごしていてほしい。できるだけのびのびと育てられた動物を食材として選んでいます。素材そのものの品質だけでなく、育てられた環境まで含めて安心できるものを使うことを大切にしています。

愛犬たちにも安心して食べさせられるように。

ーーやっぱり生食と聞くと、衛生面や管理方法に不安を感じる方も多いと思います。その点についてはどうお考えですか?

そうですね。実際、生食には菌が含まれる可能性があるので、「菌がゼロです」と言い切ることはできません。その点についてはきちんとご理解いただいた上で、ご購入いただくことが前提になると思っています。

だからこそ製造工程には細心の注意を払っています。製造から梱包までを一貫して行い、清潔な環境で管理することは大前提です。そして何より、自分たちの商品を、自分の愛犬や愛猫に与えているスタッフがほとんどです。そうした想いから、製造や梱包にも妥協はありません。一つひとつ、丁寧すぎるくらい時間をかけて作業をしています。

ーー生食に対してはさまざまな意見があると思いますが、そうした声とどのように向き合っているのでしょうか?

生食の良さは実際に試した飼い主さんには伝わっていても、SNSを中心に「本当に根拠があるの?」「安全なの?」という声をいただくことが多いです。そうした声に向き合うため、現在は藤田医科大学発ベンチャーとの共同研究も進めています。

もちろん、「生食を食べれば病気が治る」といったものではありません。ただ、体験していただいた方のさまざまなお声をいただく中で、生食の可能性を感じています。だからこそ、飼い主さんにとって少しでも安心材料になるよう、今後も研究やデータの収集を続け、発信を続けていきたいと思っています。

滋賀県に導かれて

ーーそれまで大阪や東京を拠点にされていたとのことですが、なぜ滋賀で事業を始められたのでしょうか?

実は私、もともと都会が大好きで(笑)。田舎に住むなんて全然考えていなかったんですが。理由の一つは、保護犬として迎えたレトリーバーの存在です。とても繊細な子で、大阪に住んでいた頃はトラックが通るだけでも驚いてしまうような状態でした。そんな姿を見ているうちに、もっと自然が豊かな場所で一緒に暮らしたいと思うようになり、滋賀に住むことに決めました。

ーーそうなんですね。確かに湖西エリアは琵琶湖もきれいで、自然が豊かな地域ですよね!ワンちゃんとの暮らしを考えて選ばれたんですね。

そうですね。でも実は、少し運命を感じているところもあるんです。

ーー運命ですか?

実は、学生時代に保護活動をしていたのが、高島市の方だったんです。当時飼っていた犬と一緒に何度も訪れていて、その時に見た絶景をずっと覚えていました。滋賀に住むと決めた時は全然気づいていなかったんですが、実際に住み始めて散歩していた時に、「あれ、ここあの時の景色やん!」って気づいて…。スピリチュアルな話で申し訳ないんですが…(笑)「導かれてきたんやな」「これも運命やったんやな」って感じました。

これからの夢について

ーー今はフード事業を通じて犬や猫の幸せを目指しておられますが、今後はどのような形で関わっていきたいと考えていますか?

そうですね。実際にフード事業を続ける中で、食事だけで変えられることには限界もあるなと感じています。最初は保護活動をしたいという思いから今の事業を始めたこともあって、最近は「やっぱり保護活動にもっと関わりたいな」という気持ちが強くなってきています。

そこで考えているのは、ファームと保護施設を併設した拠点づくりです。フードの原材料になる野菜を育てる農園があり、保護された犬たちの居場所もある。さらに健康管理や研究ができる環境を整え、獣医師の方々とも連携できるような場所をつくりたいと思っています。

本業であるフード事業でしっかり利益を生み、その利益を支援活動や施設運営に還元していきたいです。だからこそ、今の事業をさらに成長させていく必要があると感じています。フードだけではなく、歯磨きジェルなど、犬や猫が少しでも健康に暮らせる手助けになる商品も増やしていきたいと思っています。

「これからの人生を犬猫に捧げる。」

取材を通して印象的だったのは、梶谷さんの芯の強さでした。保護活動、フード事業、研究、そして将来思い描く施設づくり。

アプローチはその時々で変わっていても、その根底にあるのは「犬猫にとって心地よい世界をつくりたい」という思いでした。取材の中で語ってくださった「これからの人生を犬猫に捧げる」という言葉は、決して勢いで出たものではなく、これまでの歩みそのものを表しているように感じました。

いつか滋賀の地に、保護活動と事業、研究がひとつにつながる梶谷さんの構想が形になる日が来るのかもしれません。その未来を、楽しみに見届けたいと思います。

株式会社ハグオール
公式サイト:https://hugbox.jp/