暮らしの中で生きるデザイン ——信楽【古谷製陶所】古谷浩一さんのものづくり

暮らしの中で生きるデザイン——信楽【古谷製陶所】古谷浩一さんのものづくり

2025.7.17信楽・甲賀

信楽焼の窯元「古谷製陶所」を訪ねて

biwacommon編集部のひーちゃんです。わが家の食卓には、ほぼ毎日のように登場する定番があります。それは、【古谷製陶所】さんの信楽焼のうつわ。どんな料理にもすっとなじんで、飽きがこず、おしゃれで丈夫。気づけばつい手に取ってしまう、そんな存在です。


今回は、この大好きなうつわを作る人――ずっとお会いしたかった、窯元の三代目・古谷浩一(ふるたに・ひろかず)さんを訪ねてきました。

土と向き合い、家業を継ぐということ

信楽の古谷製陶所は、古谷さんのお祖父さまが始めた土の仕事を、お父さまである二代目・信男さんが「粉引(こひき)」という白いうつわで確立させた窯元です。浩一さんも幼い頃から土に囲まれ、陶芸一家の一員として育ちました。

古谷さん 「家を継ぐつもりはありましたが、実は大学ではまったく違う分野を学んでいました。芸大も考えたんですけど、どうも絵の才能がなくて(笑)。

大学卒業後に改めて、信楽窯業試験場や京都陶工高等専門校で陶芸を学び始めました。修行のための就職先も決まった頃に、父が体調を崩してしまって。急遽、ここに戻ってくることになりました。」

——跡を継ぐことにプレッシャーもあったのでは?

古谷さん 「さすがに、急に継ぐのは無理ですよね。最初は父の弟や、ずっと働いてくれている職人さんに教わりながら少しずつ覚えていって。その頃は信楽焼の業界全体が厳しい時期だったので、プレッシャーというより「とにかく頑張るしかない」という感じでした。」

粉引の白に込めた、確かな手しごと

古谷製陶所といえば、やはり「粉引」の白いうつわ。その独自性は、制作工程の丁寧さにあります。工房では、職人さんたちが慣れた手つきで作業をされていました。

古谷さん 「素地に白泥で化粧がけして、その上に薄い透明釉をかけて焼きます。粉引はもともと吸水性が高く、水じみが出やすい。だからうちでは、低温で二度本焼きを行って、汚れにくくて丈夫な器に仕上げています。」

——見えないところで、すごく手間がかかってますよね。

古谷さん 「これ、父の代からやってる技法なんですけど、もし今から始めようと思ったら大変すぎて無理だったかも(笑)。僕たちは当たり前のようにやってますけど、普通の焼き物ではまずやらない手間です。」

「暮らし」にすっと馴染む道具

工房併設のショールームには、白い粉引だけでなく、さまざまな表情のうつわが並んでいます。

古谷さん 「父はずっと白ばっかりだったんですけど、僕は食卓の中で白を引き立てる“差し色”があってもいいと思って。アンティーク風の錆釉や、青が美しいコバルトなんかも使うようになりました。料理によっては白より映えることもあるんです。」

——どこかくすぐられるような愛らしさも感じます。

古谷さん 「基本的な型は父の代から受け継いでいて、何千種類もあるんですよ。でも最後の仕上げやディテールは、自分の感覚で調整してます。縁をフリルのようにしたり、リンゴの形にしたり、ちょっと遊び心も入れたりして。」

——デザインのヒントはどこから?

古谷さん 「僕自身、料理やおうちやインテリアなど「暮らし」全般が好きなんです。家具を探してお店をまわったり、雑貨屋さんをのぞいたり。たまにはキッチンに立って、凝った料理を作ることもあります。そういう中で、自然とイメージが湧いてくるのかもしれません。」


(詳しい作品紹介記事はこちら)
信楽「大人の遠足」 VOL.2 【古谷製陶所】日々の食卓に溶け込む信楽焼の器(うつわ)

料理とうつわの関係を体感する教室

古谷さんのご実家の一部を改装したキッチンスタジオ。ここで月に数回、料理教室が開かれています。うつわが“暮らしの中にあるもの”としてしっかり根を張っている。そんな実感が得られる、素敵な空間です。

古谷さん 「うちのうつわに合わせて、丁寧な暮らしをされてる料理の先生に来てもらってます。野菜たっぷりの、健康的でやさしい家庭料理です。発酵食品や蒸篭料理、最近ではスパイスカレーも。」

——これだけ食器が揃ってると、盛りつけも楽しめそうですね。

古谷さん 「そうなんです。棚に並んだ器の中から、料理に合わせて自由に選んでもらってます。皆さんセンスがよくて、他の生徒さんの盛りつけもすごく参考になるんですよ。僕も一緒に参加して、うつわ選びを楽しんでます。」

気兼ねなく使えるからこそ、価値がある

最近は「日常を豊かにする器」として、海外からの引き合いも増えているそう。これまでもファンの多かった台湾や中国に加え、取材直後にはカナダ・バンクーバーで初の展示会も予定されていました。国を超えて愛される理由のひとつには、「扱いやすさ」もあるのかもしれません。

古谷さん 「日常で気兼ねなく使ってもらえるものが、やっぱり一番いいと思うんです。飾るとか仕舞い込むよりも、毎日使ってほしい。欠けたり割れたりしても「また同じのが欲しい」って買ってもらえるような器が理想です。」

——丈夫なのに、軽くて扱いやすいんですよね。

古谷さん 「最近は食洗機OKにしているものもあるんです。僕も5年くらい前から毎日使ってて、意外と手洗いよりいいかもと思ったりして。推奨ではないですけど、丁寧に入れてもらえたら全然大丈夫です。電子レンジもOKです。」

たくさん使って、育てていくもの

古谷製陶所のうつわは、決して派手ではありません。けれど、手に取るたびに気持ちがほぐれ、料理を盛るたびに心が満たされる。そして、使い込むほどに風合いも増していく。「どんどん使って、育てるうつわ」だと感じます。

ずっと、大切に使い続けたい――取材を終え、丁寧な手しごとによって生み出された古谷製陶所のうつわが、これまで以上に愛しい存在になりました。


Instagram @hirokazu_furutani
公式サイト https://furutani.handcrafted.jp/