Biwacommon編集部ひーちゃんです。2025年も滋賀の「いいもん・とこ・ひと」をゆるやかに発信していきますのでよろしくお願いします。
さて昨年(2024年)は、全国でコーヒーフェスの開催が急激に増えたそうです。イケてるカルチャー誌『BRUTUS』でも12年ぶりにコーヒー特集が組まれていましたね。いわゆるブームです。
もちろんこちら滋賀でも盛り上がっていることは、『SHIGA COFFEE FES.』の記事でレポートしたとおりです。滋賀のコーヒー好きにとっては、心底ありがたく楽しいこのイベント。「主催者に会いたいなぁ〜」と思い立ち、【Yeti Fazenda COFFEE】打出 拓(うちでひろし)さんを訪ねてきました。
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場所は彦根市河瀬。レトロモダンな風情が漂うヴォーリズ建築の一角に【Yeti Fazenda COFFEE】はありました。赤、青、黄色…、窓辺のPOPなディスプレイはコーヒー器具ブランドKONO(コーノ)のカラフルなドリッパー。「滋賀にこんなところが…!」20年来KONOの円錐ドリッパーを愛用する筆者にとって、それはのっけからたまらん光景なのでした。
扉を開けて店内へ。豆や雑貨の販売とテイクアウトコーヒー専門の店ですが、小さなカフェスペースも用意されています。これまたどこを切り取っても絵になる洒落た空間。わざとらしくないのがカッコいい。「滋賀にこんなところが…!」もう、何度でも重ねます。
そこへ、飄々とした雰囲気を纏って現れた打出さん。第一印象は「センスが良くて近寄りがたそうな自由人」。
お店は2010年のバレンタインデーにオープンし今年で丸15年。当時はまだ自家焙煎する個人経営のコーヒー専門店は希少な存在でした。
その頃から変わらずYetiの豆の味を支えているのが、通称“ブタガマ”と呼ばれるアナログ式の焙煎機です。
打出さん(以下、打):50~60年前の年代物。いたって単純な構造ですが、鉄の厚みがこれだけのものは今はなかなかなくて。その日の天候や温度・湿度によって仕上がりが変わるこので、コンピュータ制御できる最新の機械よりも慣れが必要ではあります。でも、これでしか出せない味がある=それがYetiの味。
ひーちゃん(以下、ひ):古い焙煎機を手入れしながら大切に使っている…と聞くと、昭和のレトロ喫茶で出すような深煎りのコーヒーを想像してしまいます。
打:全然、そんなことはないです 笑 浅煎りから深煎りまでいろいろ幅広くやってますよ。トレンドのフルーティーで華やかな風味のものもあったり。ただ、うちがやっているのはすべて「ブレンド※1」です。
ひ:スペシャルティコーヒー※2はシングルオリジン※3が主流と思っていたんですが、ブレンドだけを出すっていうのは珍しいですよね?
打:あまり他ではやっていないでしょうね。ブレンドにする理由は単純に“おもしろい”から。合わせる味をどうするか考える、そこにおもしろい部分が詰まっています。
※1 複数の原産地の豆を組み合わせたコーヒー。独自のコクや風味を表現できる。
※2 品種、生産地などが特定可能でユニークな香りや味がある高品質なコーヒー
※3 単一の地域や農場で栽培されたコーヒー。豆本来の個性が楽しめる。
ひ:どうして滋賀でコーヒーフェスを主催することになったんですか?
打:最初は岐阜で主催する『Yanagase COFFEE COUNTER※4』を知ってくれたイベント会社さんに声をかけてもらったのが始まり。滋賀でもやりたいです、って。1回目は協同開催でしたけど、引き継ぐ形で今は自分が動いています。
ひ:いろんな人と連絡を取り合ったり、許可を申請したり、それを先頭に立って年2回もやるって大変ですよね?何か原動力みたいなものはあるんですか?
打:『TOKYO COFFEE FESTIVAL※5』が原体験。そこに出店させてもらった時に「こんなに人来るんだ!」って驚いて。コーヒー淹れている姿をたくさんの観客が見てパシャパシャ写真撮ってね。また「おーっ!」てなるという。コーヒーでこんなに沸くんだとカルチャーショックでした。
ひ:すごい、高揚感ありますね。
打:アイドルじゃないけど、主役としてスポットを浴びて。あの感動が忘れられない。本来自分で焙煎している誰もが「売りたい」「知られたい」「見られたい」と思っているはずで、でもそんな一人ひとりを引き上げられる「コーヒーを現す場所」が滋賀にはなかったので。
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これまで十何年と全国のコーヒーイベントに出店し、同業仲間との輪を広げてきた打出さん。そんな繋がりが積み重なり、フェスには東北や沖縄など遠方からも人気の焙煎士や専門店が参加してくれるそうです。
※4 2020年から岐阜で開催。全国10店舗の焙煎職人が長いカウンターに立ち並ぶ。
※5 2015年に始まった日本最大級のコーヒーイベント
自称コーヒーLOVERの筆者でしたが、最近出合うコーヒーは一口含んで「!!!」と驚くものが増えました。コロナ禍でぼんやり過ごしている間にも、コーヒーを取りまく世界はすごい速さで進んでいたようです。
打:今の流行りは、酸味があって、香りがいいもの。洋酒に漬け込んだりフルーツで発酵させたり、今まであったようなコーヒーとはジャンルの違うものが出てきています。
ひ:「焙煎士」「バリスタ」を職業とする人も増えましたね。海外の有名店を回って修行を積んだり、世界のチャンピオンシップに挑戦したり、日本人にもすごい人がいると聞きます。
打:もちろんフェスに有名人を呼ぶのは話題になります。でも『SHIGA COFFEE FES.』は「◯◯さんが来てる!」っていう人にスポットを当てたものではなくて。「公園でJAZZを聴いて美味しいコーヒーが飲める」そんな場所が身近にあるんだよ、というのが大事。
ひ:フード店やお菓子店、雑貨屋さんなどの出店もあって。コーヒーのイベントなんだけど、小さなお子さんを連れたファミリーでの来場も多いですよね。
打:誰が来ても、コーヒー好きでなくても、『SHIGA COFFEE FES.』をやっているあの公園に行ったら「何か楽しいことがある」というのが根付いてくれたら嬉しいです。
ひ:これからコーヒーはどうなっていくんでしょう?
打:たった10年前と比べてもコーヒーの種類やアレンジが全然変わってきている。サードウェーブ※6 がスタンダードになって、そこから先の世界が始まっています。
ひ:最近は「コーヒー2050年問題」という言葉も耳にします。
打:このままのペースで地球温暖化が進むと、栽培に適した土地が2050年までに半減するといわれている問題です。当然価格が上がるし、コーヒーが高級な嗜好品になる。
ひ:毎日気軽にコーヒーが飲めなくなるなんて考えられません…
打:それもあるし、あとはAIロボットの時代ですから。チャンピオンの淹れ方をスムーズな動きで真似るロボバリスタが出現して、人が淹れる価値が問われることになるかもしれない。
ひ:うわーこれからいろんな問題が起こりそうですね。それでもずっとフェスは続けていってくれますよね?
打:やりますよ 笑 フェスも時代に合わせて変えていかないと。そもそも今まで100%満足したことがないんです。ずっと練習のようなものを繰り返している。終わったらすぐに反省して、次はどうやろうかと考える。そうやって考えたり追われたりしていることが、しんどいけど好きなんだと思います。安定したいけど、安定は“おもしろくない”から。
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「好きなことだけやっていたらこうなったわけじゃない」小さく呟いた言葉に、コロナ禍で試行錯誤しながらコーヒーイベントを立ち上げた苦労が滲んでいるように思いました。
見た目の自由人ぽいスタイルゆえに、時代の波に上手く乗ってソツなくやってきた人のかな?なんて思っていたことを反省。コーヒーやそこに携わる人たちに対する真面目で熱い(=面倒見がいい)思いがベースにあって、打出さんなりの「こうしてみよう」を真摯に積み重ねてこられたことが窺い知れました。
2025年の春からは草津駅前「エースクエア」でも定期的なコーヒーイベント『珈琲市場』を開催予定。打出さんのなかに“おもしろい”を求めるパッションがある限り、滋賀のコーヒー界隈はこれからもワクワクが続きそうです。
※6 日本のコーヒーの変遷
・ファーストウェーブ(第1の波) 1960~1980年代、インスタントコーヒーや缶コーヒーが発売され一般家庭に普及
・セカンドウェーブ(第2の波) 1990~2000年代、アメリカのシアトル発祥である「スターバックスコーヒー」や「タリーズコーヒー」などが日本に出店し深煎りエスプレッソ(+アレンジ)が定着
・サードウェーブ(第3の波) 2015年、サンフランシスコ発祥の「ブルーボトルコーヒー」が日本に上陸したのを皮切りに、産地や抽出方法などコーヒーそのもののクオリティにこだわる消費者が増加
ひと通りお話を伺ったあと、テイクアウト用のコーヒーを淹れていただきました。
私が注文したのは『COFFEE HONEY/Perfume BLEND』。花のような甘く優雅に香るフレーバーで、アフターテイストもずっと華やか。ちょっとだけ高価ですが、すごくおすすめです。
一緒に行ったキム兄は『Yeti ブレンド』を注文。「飲みやすいわー!」と何度も言っていました。中煎りでバランスの取れた、お店を代表するブレンド。日常を豊かにする一杯にぜひ。
たくさん種類があるブレンド豆やドリップバッグで何を買おうか悩んだときも、実際に飲んでみてから選べるのがいいですね。
ハンドドリップで丁寧に淹れてくれるコーヒーは、その美しい所作を間近で見られることにも価値がありました。AIロボットにとって替られる心配はしなくていいんじゃないのかな〜、なんて思いながらうっとりと眺めていました。
【Yeti Fazenda COFFEE】
住所:〒522-0047 滋賀県彦根市日夏町2908-5 日夏公民館跡日夏里館1階
営業日:水〜日曜日 11:00〜17:00(※イベントなどで変更の場合も多いので要確認)
駐車場:あり