八幡堀さんぽ Vol.3 滋賀の魚と野菜を味わう、人情味あふれるごはん屋さん【食堂ヤポネシア】

八幡堀さんぽ Vol.3 滋賀の魚と野菜を味わう、人情味あふれるごはん屋さん【食堂ヤポネシア】

2025.8.1近江八幡・東近江

吸い込まれるように入店

biwacommon編集部のひーちゃんです。八幡堀さんぽVol.3です。

それは、近江八幡へ取材に訪れたときのこと。その日は予定が流動的で、ランチの時間が取れるか分からず、お店の予約もしていませんでした。

ちょうど少し余裕ができて「どこかで食べようかな」と思った瞬間、目に飛び込んできたのが【食堂ヤポネシア】。店先から漂う謎めいた雰囲気に、思わず吸い寄せられました。

とりあえず外の黒板メニューをチェック。
・天然スッポン煮込み
・ビワマスのグリル
・ブラックバスの煮つけ
……上から3つだけでもう、すでにヤバい。

「あわよくば、面白い取材ができるかも…?」という期待を胸に、暖簾をくぐって入店。すると奥から、店主と思しき男性が登場しました。

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第一印象「クセ強そう」

インパクト絶大な店主・松岡宏行さん。

お客さん ごちそうさまでした
店主 はい、1800万円です
お客さん 誰が払うんですか(笑)
店主 いつかアラブの富豪が来て、スッと払うかもしれんやん?

——終始、こんなベタな掛け合いが飛び交っていて、横で聞いているだけでそわそわします。でも、お客さんたちはひと笑いしたのち、みんな笑顔で店を後にされていました。

まだ注文すらしていないけれど、「きっとここは間違いない」。そんな予感がして、フライング気味に取材をお願いしてみました。

ひーちゃん お顔の写真も撮らせてもらっていいですか?
店主 ええけど、スリーサイズは教えへんで〜

サービス精神、旺盛すぎる(笑)

ふわっとした空気感が心地いい

店内のインテリアは東南アジア風だったり中華風だったり、統一感があるような、ないような……。でも不思議と、ひとつの世界観としてまとまっています。並んでいる本もジャンルはバラバラ。なのに、どれも興味をそそられるものばかりです。

あ、巨大なズッキーニ。『小林ファーム』や『近江園田ふぁーむ』の新鮮な有機野菜が販売されていました。普段スーパーでは見かけない品揃えです。

席はテーブルとカウンターがあり、カウンターのお客さんは松岡さんとの会話を楽しんでいる様子。全員常連さんかと思いきや、後で聞くと、半分以上は一見さんとのこと。昼から羽を伸ばせるような、飲み屋的なフランクさがいい感じです。

滋賀の食材をふんだんに

取材という意味では、滋賀らしいビワマスやブラックバスを選ぶのが正解だったのかもしれません。でもそのときは、気分のままに「ガパオライス」を注文。気の利く新人・モリモトは、ちゃんと「ビワマスのグリル」を選んでいました。

まず最初に登場したのは、具だくさんのお味噌汁。皮付きのかぼちゃがゴロゴロ入っています。なんと種まで柔らかく、どこをかじっても滋味深くて美味しい!

タイ料理のガパオライスはミンチで作るイメージでしたが、ここでは滋賀県産の鶏もも肉がごろっと入っていて、食べごたえ抜群。ハーブとスパイスが効いたアジアンテイストで、クセになる美味しさです。

添えられている野菜は、ゴーヤ、じゃがいも、かぼちゃ、黄色かぼちゃ(生)、メロンの浅漬け、きゅうり、ズッキーニ、トマト、ピーマン、セロリ、モロヘイヤ……などなど、もう数えきれない!さらには厚揚げや赤こんにゃくの姿も。いずれも大ぶりにカットされ、素材の旨みがダイレクトに伝わってきます。

珍しいびわ湖の魚

熱々の鉄板にのって登場したビワマスのグリル。フライパンでソテーした後、さらにグリルでじっくりと火入れしているそうです。モリモト曰く、「底はパリッと、身はふんわり。脂がのってるのに、上品な甘さでくどくない。マスタードがまた絶妙に合う」とのこと。

こちらにも、お味噌汁とごはん、野菜たっぷりのプレート付き。素材ごとの美味しさを活かすために、それぞれ下処理や味付けを変えているから、相当な手間がかかっているそう。けれど、「お皿が寂しくならないように」と、いつでもたくさんの種類を盛り合わせているのだとか。

ちなみに、食材のほとんどは近江八幡産。「地産地消へのこだわりですか?」と尋ねると、「近くに美味しいもんがあるのに、わざわざ遠くのもん使う必要ないでしょ!」と、理由はいたってシンプル。

メニューには他にも、カオマンガイ、トマトポークカレー、ゴーヤチャンプルなど、南の島を旅したような気分になる料理が並んでいました。

障がい者雇用のむずかしさ

食後、松岡さんと少しお話をすることができました。また冗談で和ませてくれるのかな?と思いきや、話題は社会や福祉について。深く考えさせられるものでした。

もともと松岡さんは居酒屋を10年経営した後、グループホームを運営する「NPO法人縁活」で『オモヤキッチン』という自然派レストランを立ち上げ、障がいのある方の就労支援にも携わってこられました。ホームの利用者さんが農園で育てた野菜を使い、キッチンでも一緒に働くことで、社会との接点を生み出していたそうです。

【食堂ヤポネシア】として独立してからも、障がい者の就労や持続可能な働き方について真剣に向き合ってこられました。けれどまずは、「生きづらさを抱える人が肩の荷を下ろせる場所でありたい」という想いを持って、日々の営業を続けているのだそうです。

目の前の人を気持ちよくしたい

地元食材をふんだんに使い、こんなに美味しくてヘルシーな料理を提供しているのに、「味にはこだわってない」と話す松岡さん。

「僕の理想は、目の前の人が気持ちよく過ごしてくれること。笑って、楽しくいてくれること。料理はそのための“ツール”に過ぎないんです」

確かに、初めて訪れた私たちにも、冗談まじりで気さくに接してくれる。だからこそお客さんもふっと肩の力が抜け、自然と心を開いて素直な言葉が出てくるのかもしれません。

「他人やからこそ話しやすいこともある。ここで好きなだけ弱音吐いたらいい。でも僕は悩みを聞くだけ。何もしてあげられへんよ、って。…まぁ、何度も同じ相談しに来るお客さんもいはるけど(笑)」

愚痴や悩みを聞いてばかりだとしんどくならないのか?と尋ねると——
「すぐ忘れるから。実は冷たい人間なんです」

そう話す表情からは、あふれるような人情味が伝わってきました。

季節が変わるごとに訪れたい

心身の健康を大切に考える松岡さん。大ぶりにカットされた食材は、「しっかり歯を使って食べてほしい」という想いから。もぐもぐ噛んで食べ応えがあるのに、味付けはやさしくて、するすると身体に入っていきます。

季節が変わるごとに使う食材も変わり、冬にはこれまた珍しい「鮒の刺身」などが登場するそう。鮒は沖島の漁師から仕入れ、和食店での修行経験を活かして丁寧に下処理をしているとのこと。「9割の人に“泥臭いんちゃう?”って聞かれるけど、泥臭かったら出さへんわ!(笑)」

いい食材、うまい料理、温かな人柄。通わない理由がない、そんなごはん屋さんでした。

帰り際、「うちの料理は“ハッピーパウダー入り”って書いといてや〜!」とニヤリ。
最後の最後まで笑わせてくれた松岡さんに、また会いに行きたいと思います。


【食堂ヤポネシア】
住所 〒523-0862 滋賀県近江八幡市仲屋町中24-1
営業時間 11:00〜15:30 ※たまに夜営業「ヨルネシア」開催
定休日 月・火曜日 ※イベント出店等のため週末不定休あり

公式サイト https://japonesia.net/
Instagram @japonesia_omihachiman